コラム from NY【第4回〈後編〉】
2013年6月 6日
「SMASH」を足元から支えている靴屋さん
「1週間に8公演もの舞台をこなし、踊り動く舞台では、靴は本当に大切。また、テレビドラマや映画の撮影も、何度も同じシーンを撮り直すと何十時間という間同じ靴を履いていなくてはならないからね」と、しみじみ語るジョンさん。実は、彼自身も、ブロードウェイの舞台に立つことを夢見て大学でもシアターを専攻し、プロの俳優を目指していたそう。シアターの勉強をした経験があるからこそ、例えばスタイリストから「今回は、こういう年代の設定のドラマなんだけど」と言われれば、どんなデザインの靴がその時代に流行っていたのかなど必要な知識にも応対できるそうです。スタイリスト達にとって、とても頼れる存在のジョンさん。 芝居などで使う靴は、その舞台設定の年代によって、靴のパーツを付け替えたり、色を変えたり、デザインを変えたりも出来るそう!
WORDTONEには数十社の取引先の靴がありますが、どこのメーカーの靴も、何十時間履いていても決して足が痛くならないというお炭付き。なので、撮影や舞台にはもってこいの靴だそう。ジョンさんも、ここで扱っている靴があまりにも履き易いため、外に履いても使えるように靴の底を革などに張り替えて、毎日履いていらっしゃるそうですよ!
また、このお店で扱っているダンスシューズの特色は、ぱっと見て、それがダンスシューズだと判らないこと。そして、豊富にデザインがあること。紳士もののダンスシューズも、まさしく普段履く革靴のよう。それに凄くおしゃれなデザイン!女性用の靴も、その種類の多さに圧倒されてしまいます。「SMASH」で使われているのも、まさにそんな特色を持つWORLDTONE の靴だからこそ。「『SMASH』では、普通のシーンから、突然、踊りのシーンになるというカット割りがとても多いけど、そのシーンを撮る時、靴を履き替える必要がなくなるでしょ」というジョンさんの説明を聞き、「なるほど、確かに!!」と感動してしまいました。
履き易さに加え、普通の靴のように見えるというWORLDTONE が取り扱っているダンスシューズ!エンターテインメント界のセレブリティが放っておくわけがありませんね。
例えば、ここの靴の大フアンだという女優のライザ・ミネリさん。彼女は、自身のコンサートで履く靴を探しに何度も来店されているそうですよ。その他にも、ジェニファー・ロペスさん、ビックマン・ダイクさんなどなど、ここのお店の靴を利用しているセレブは大勢いらっしゃるそうです。
店内では、レッド・カーペット用の高いヒール・コーナーもありました。高いヒールであっても、美しく見えるだけでなく、その履き心地の良さはローヒールのダンスシューズに負けず劣らずだとか!
更に、ここのお店で扱っているダンスシューズは、ジャズダンスはもちろん、社交ダンス、サルサ、メレンゲ、ワルツ, タンゴ、スイング, チャチャチャなどで履く靴が揃っています。そして、とても便利なのは、自分の欲しいと思った靴を1足から購入することができ、しかもサイズのストックも豊富!
ショップの周辺にはダンス教室も多く、撮影の当日も、「これから、初めてサルサのクラスを取るのだけど、どの靴がいいかしら?」と、立ち寄って、店員さんに相談している人達がたくさんいらっしゃいました。そして、購入する前に、実際に履いてみてサイズや履き心地を試せるよう、お店の中央にはダンス教室のフロアーのような素材で出来たエリアがあり、そこで実際に何度もステップを踏んだりターンをしたりできるのです。至れり尽くせりですね。
色々と、楽しい靴を見せて頂き、色々な種類の靴の説明を丁寧にしてくださいました、エンターテインメント用の靴を担当しているジョンさん。彼に、ここで働いていて、忘れられないエピソードはありますか?と訪ねたところ、こんな話を聞くことができました。ずっとレッスン用の靴を買いに来てくれていた女優さんが、ある日、「ブロードウェイのアンサンブル役に付けたの!」と店に寄ってくれたので、彼が心を込めてその舞台で使う靴のフィッテングをした。そしたらこの間、その彼女が数年ぶりにお店を訪ねてきてくれて、これからオープンするブロードウェイ・ミュージカル「フラッシュ・ダンス」で自分がタイトルロール(主役)を演じることになった、と報告をしてくれたそうです。「このように、人との素晴らしい出会いがあるから、だから僕は、ずっとWORLDTONEで、これからもたくさんのショーを支えていきたい」と、話して下さいました。ジョンさんは、その彼女の俳優としての人生を、まさに足元から支え、歩く道筋を見守ってこられたのですね。とっても素敵なエピソードをありがとうございました!
舞台は、その舞台を企画し資金調達するプロデューサーがいて、舞台の上で演じる俳優たちがいて、曲や歌詞を書く人、音楽を担当する人、舞台装置を考える人、舞台転換をする人、小道具を用意する人、スポットを当てる人、衣装を担当する人、カツラを作る人、そして、舞台の上で、役者たちが思いっきり動けるよう"靴"を用意する人と、数えきれないほどの役割があります。その役割が全部一つにまとまって、1つの"舞台"が生まれるのですね。
私たちが観客として観劇に行く1つの舞台。それが生まれるまでに、更にたくさんのショートストーリーが舞台裏では生まれている...そう考えると、感動してきます。
そして、そのドラマの裏側を描いたのが「SMASH」!スピルバーグさんの目の付けどころは流石に凄い(笑)。
「石を投げれば、役者か舞台関係者にぶつかる」とまで言われている世界屈指の舞台都市であるニューヨークから、ブロードウェイを支えている人々の姿を、ほんの少しですがコラムを通じてご紹介させて頂きました。
「SMASH」をご覧になりながら、ブロードウェイの舞台を様々な立場でたくさんの人たちが支えていることを思い出して頂けたら嬉しいです。
そして、まだ本場のブロードウェイ・ミュージカルをご観劇された事がない方は、次にニューヨークにいらしたら、是非、劇場に足を運び、夢の世界にどっぷりと浸ってみてください。
そして、その時もし良かったら、役者さんたちの足元で、一生懸命縁の下の力もちで頑張っている"靴"にもご注目下さいね。
「その小さな靴のひとつひとつにも、たくさんのドラマが詰まっているかも知れませんから・・・。」
WORLDTONE HP: http://www.worldtonedance.com/Home.html
全米紙 ニューヨークタイムズで取上げられた記事:
New York Times (english only)