ブロードウェイの舞台を裏で支えて来た老舗レストラン Sardi's 

「SMASH」ファンの皆様、こんにちわ!ニューヨーク在住の篠崎はるくと申します。

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これから数回に渡って、「SMASH」に関連する現地のレアな情報や、エンターテインメントの裏側をお伝えします。どうぞ宜しくお願い致します。

さて、第1回目は、アメリカのニューヨーク市、マンハッタン島の南北、東西を横切る41丁目から53丁目辺りの夥しい数の大小の劇場がひしめき合うエリア...そうです!!「SMASH」がストーリーを展開させる、世界的に有名な"ブロードウェイ"から、ブロードウェイと共に歴史を刻んできたコンチネンタル・スタイルの美味しい料理が頂けるレストラン、"サーディーズ"をご紹介させて頂きます。

今回は特別に、サーディーズの三代目オーナー、マックス・クリマビシュス氏にインタビューに応じて頂き、ショービズ界の"裏側"を舞台に繰り広げられているドラマ「SMASH」よろしく、1921年の創業より変わりゆくブロードウェイの姿を見つめ続けてきたサーディーズだからこそ語れる、ブロードウェイとレストランとの深い交流の"裏側のドラマ"を色々と伺ってきました。



1921年、サーディーズの誕生!

「サーディーズは、世界大恐慌時代がまさに始まろうとする1921年に、2人のイタリア人移民のビンセント・サーディーズ(Vincent Sardi, Sr.)と妻のユージニアによって開業されました」そう話し始めてくださったマックスさん。

アメリカの経済の破綻もあり大変に苦しい時代で、禁酒法(1919-1933)もあった為、イタリアからの移民がマフィアと関連しているという誤解を受けない為に、得意のイタリア料理を出すのではなく、アレンジしたコンチネンタル・スタイルの料理を出し始めたそう。それが今もサーディーズで出されている料理の原型になったそうです。オリジナリティー溢れるメニューの裏側には、そんな時代背景と、アメリカンドリームを追う移民ならではのストーリーが隠れていたんですね。そんなことを考えながら料理を口にすると、より一層、感慨深いものがあります。 

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シアターと結婚をしたレストラン、それが"サーディーズ!"

「Sardi's Engaged with the Theater」(サーディーズは、シアターと結婚をしたレストランなんだ!!)と、インタビューの冒頭にマックスさんは噛み締めるように言いました。

元々、お芝居が大好きだったサーディーズと妻のユージニアは、そう語るに相応しい場所、ブロードウェイ劇場街の中心のこの場所にレストランを構えたそうで、現在のレストランの向かいは、世界に何十もの劇場を所有する"劇場王"シューバート一族が所有する劇場「シューバート・シアター」があり、同じ通りには、ギネスブックにブロードウェイ史上最長ロングラン公演として載っている名作「オペラ座の怪人」を上演している「マジェスティック・シアター」もあります。更に、「SMASH」の中で、プロデューサーのアイリーンが新作ミュージカルを上演したい劇場として候補に挙げていた、「セント・ジェームス・シアター」も、サーディーズから、わずか2軒西に行った同じ通りにあるのです。驚いたことに、1921年当時は、まさにそのセント・ジェームス・シアターが今ある場所でサーディーズを開業し、劇場建築を始めるということで1927年場所を移動、今に至るとのこと。早速、「SMASH」に関連する面白いエピソードが出てきましたね♪

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ブロードウェイのネオンサインに囲まれながら、光り続けているサーディーズのネオンサイン

劇場街の中心という場所柄、ブロードウェイのプロデューサー達が新作の企画会議をしたり、投資家の接待などにこのレストランを利用することが多くなり、自然な流れで関係者が集まる店になります。初日公演後のパーティー会場として、初日の翌日に出る新聞の劇評を緊張しながら待つ場所として、ブロードウェイ関係者とこのレストランは、幾つもの逸話を作ってきました。

ブロードウェイのヒット・ミュージカル「プロデューサーズ」(後に映画にもなり、大ヒットしました)のミュージカルナンバーの中に、「♪ボクは、ブロードウェイヒット作を出すようなプロデューサーになりたいんだ。ボクはブロードウェイのプロデューサーになって、"サーディーズ"で、毎日ランチを食べるんだ♬(原語:I wanna be a producer With a hit show on Broadway, I wanna be a producer Lunch at Sardi's every day ) 」という歌詞が出てきても、あの"サーディーズ"のことだと皆に認識されるくらい、ブロードウェイの社交場としてなくてはならないレストランとして定着してきたのです。

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ブロードウェイの夜の顔、サーディーズの後方に見えるセント・ジェームス・シアター。向かいのシューバート・シアター。


"サーディーズへようこそ!!!"

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ブロードウェイのロゴマーク=「喜劇」と「悲劇」(Comedy and Tragedy)の仮面のマークが、ガラス彫りされている重厚なドアを開けて、サーディーズの世界へ、ようこそ!

ブロードウェイのロゴマーク=「悲劇」と「喜劇」(Comedy and Tragedy)の仮面のマークがガラス彫りされた重厚なレストランのドアを開けると、まず目に飛び込んでくるのが、壁一面に飾ってある俳優の似顔絵が入ったフレーム!その数の多さにも圧倒されますが、役者達の顔が面白く誇張された絵の持つ、何とも言えない独特のユニークなタッチと、フレンドリーな表情!足を踏み入れた瞬間に、レストランを舞台にした物語(シアター)が始まりそうで、そんなワクワクした気持ちになる独特の空間こそが、サーディーズ最大の魅力なのです!

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三代目のオーナー、マックス・クリマビシュス氏


サーディーズのシンボル"似顔絵"の魅力

今やお店のシンボルとなっている壁一杯の絵を最初に掛け始めたのは、1927年に、レストランが今の場所に移ってすぐのことだそうで、訪れてくれたお客様に、一瞬でレストランが印象に残るような、何かお店のシンボルになるようなものはないか、と、オーナーが考えていた時、出入りをしていた評論家達が「レストランに来た有名人をスケッチして壁にかけたらどうか」と発案、彼らの知人の画家アレックス・ガード (1900‒1948)に、常連客の顔をスケッチしてもらい、そのイラストを額に入れて壁にかけはじめたというのが始まりだそうです。

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3715_MG_3529.JPGこうして、アレックス・ガードは、お店を訪れた著名人のイラストを1927年から書き始め、亡くなるまでの21年間もの間、実に700枚以上の絵を書き続けたそうです。当初、食事と引き換えに絵を提供するという契約をしていたアレックスに、一代目のオーナーの没後、息子のビンセント・サ‒ディーズJr.は絵のギャラをきちんと支払わせて欲しいと申し出たそうですが、アレックスは頑なにそれを拒み、似顔絵を書いては、その代償として、サーディーズで食事を出してもらうという関係を亡くなるまで続けたそうです。まるで、舞台のワンシーンのように心に残る素敵なお話しですね♪

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イラストレーターも世代交代してきました。アレックスの後任ジョン・マッキーがアルコール中毒になり辞任。そのすぐ後を引き継いだのが、劇作家でもあったドン・ベバン。ドンが1974年に引退し、彼の引退後に一般公募で見事にその座を得たのが、ブルックリン生まれのイラストレーター、リチャード・バラッツ。彼は現在もなお、30年以上に渡り、サーディーズの顔である"著名人の似顔絵"を書き続けているそうです。

時代時代に異なる画家に描かれたイラストには、それぞれの画家の特色が非常に良く出ています。顔の特色を誇張する独特の書き方をしていたアレックスの絵、そして、銅版画を専門としている為、近づいてみると細かい線がたくさん描かれている現在のイラストレーターのリチャードの絵。サーディーズで似顔絵を書き続けてきたアーティスト達は、皆、自分のスケッチがサーディーズの壁に飾られることを誇りに思い、楽しみながら描いたのでしょう。そのことが伝わるとても素敵な絵ばかりです。

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マックスさんは、これだけの数の中でも、何処に誰のイラストがあるのかを覚えているそうです!


壁の似顔絵は、まるでブロードウェイを物語る美術館

似顔絵の数は、今や約1300枚前後にも及び、新しいイラストが1年に23~25枚はフレームされるそうです。壁に絵をかける時は、モデルになったご本人をお店に招いて大々的にパーティーを開催!サーディーズの似顔絵になるということは、セレブティの彼らにとっても、とても名誉なことなのです。         

新しい絵の一方で、初期の頃にかかれた似顔絵は世代交代となります。1979年、サーディーズは、初代専属イラストレーターのアレックスが描いた初期の絵を含む227枚のイラストを、リンカンセンター内ビリー・ローズ・シアターに、ブロードウェイの俳優達の資料として寄贈しました。ご興味のある方は是非訪れてみてくださいね!

まさに、サーディーズの壁の絵は、ブロードウェイの著名人達の歴史であり、ブロードウェイ関係者の辞書のようですね。

食事をしながら、お気に入りの役者さんの描かれたイラストを見つけ出すのも、楽しみのひとつです。

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新しく加わったイラストは、レストランのドアを開けてすぐの正面に飾られ、次第にレストランの奥の壁に移動していくそうです。要チェック!


あの"トニー賞"も、"サーディーズ"で生まれた!

3715_MG_3742.JPGブロードウェイのファンの方であれば、一度は耳にしたことがある"トニー賞"。トニー賞とは、アメリカン・シアター・ウィングおよび、全米劇場プロデューサー連盟により授与される、演劇とミュージカルの賞のことで、その分野は、作品賞に始まり、主演女優賞、男優賞、助演女優賞、男優賞、作詞作曲賞、技術賞、舞台美術賞などと細かくわかれ、舞台作品を作る為に関わる全ての分野において優秀な功績を讃えるためにある演劇のショーレースです。トニー賞を受賞した作品は、世界にその作品の功績を残すことになるので、今や、トニー賞を受賞する為に、よりよい作品作りを目指す!と言っても過言ではないくらい、ブロードウェイ関係者にとってあこがれの賞なのです。

そして、なんと!!このトニー賞の発案の地が、まさにここサーディーズ!常連客のプロデューサー、ブローク・ペンバートンが、ある日関係者達とサーディーズで食事をしていて、「最も観客を楽しませたシアターに、各部門の賞を与える祭典を企画しよう!」と言い出したのが、そう!トニー賞の始まりになったそうです。何と歴史的な瞬間に立ち合ったレストランなのでしょう。

まさに、サーディーズは、ブロードウェイのショービズと半世紀以上にも渡り密接に繋がっている、世界に類を見ないとてもユニークで、歴史的なレストランなのです。


今も変わらず、ブロードウェイと共に歩み続けているサーディーズ

創立者の意志を受け継いで、このレストランを継いだサーディーズJr.も、役者達をわざとプロデューサー達のいるテーブルの近くに座らせて、自らが間に立ち双方を紹介したり、舞台のギャラだけでは食べていけない俳優達には、本番前にお腹いっぱい料理を提供したりと、ありとあらゆる場面でシアターをサポートしてきたそうで、今でも、アメリカの俳優協会や映像協会などに所属している俳優達には、登録の身分証明書の提示で、特別な割引があるそうです!

また、ウエイター全員が、今、上演中の公演時間を把握しているそうで、観劇前にすぐに料理が出せるセットメニューを用意し、終演後にも立ち寄れるように夜遅くまで営業をしているそうです。何と徹底したホスピタリティー!ただし、多くのシアターが月曜休演日なのを受けて、サーディーズも月曜日だけがお休みなのでご注意を。

早めの時間帯に閉まってしまうレストランが多いシアター界隈。終演後の時間帯でも、ゆっくりと食事できるところがあるということを知っておくと、とっても便利です!

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ウエイターの方達の殆どが、既に何十年もの間、ここで働いているという。このレストランで働いていることをとても誇りに思っているんです!


有名なスターを一般のお客様のように、一般の方達をスターのように!

今もなお、毎年行われるアウター批評家協会賞の授賞式をはじめ劇場関連のイベントなどで利用されるサーディーズ。毎週水曜日には、ショーの出演者達が昼の部を終えた後にここに集い、夜の部の閉演まで心と身体を癒したり、VIPの役者達も、まるで我が家に帰ってきたような気軽な気持ちで、ふらりと訪れてきてくれるそう!

「このレストランでは、有名なスターは、彼らを一般のお客さんのように扱い、そして、一般の方達をスターのように扱わせてもらうんだよ」そう語ってくださったマックスさん。そのポリシーこそが、このお店が92年間もの間、多くのブロードウェイ関係者に信頼され、そして、ブロードウェイを訪れる世界中の人達に愛され続けている理由なのかも知れませんね!

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92年もの間、ブロードウェイと共に時を刻んでいるサーディーズの暖かな店内の光・・・


「SMASH」シーズン1でも、そして、シーズン2にもサーディーズが登場?!

レストランとブロードウェイとの、たくさんの心温まる交流の逸話をお話してくださったマックスさん。
ところが帰り際に、もっとビックなニュースをささやいてくれました(笑)

「SMASH」シーズン1では店内を、そして、今、アメリカで放送中のシーズン2でも、既に何度かお店の外装が登場しているサーディーズ。

「実は、「SMASH」のシーズン2でも、店内で撮影がしたいというオファーがまさに今入っているんだ、まだどうなるか判らないけどね!!もしも出たら、お楽しみに。」とのことでした!!

ふふふふっ。楽しみ~♬

皆様がNYでこのお店を訪れている時に、ふと隣のテーブルで、トムとジュリアが台本の打ち合わせをしているシーンに出くわしたり、あるいは、アイヴィーがあなたの隣で、カプチーノを飲んでいるかも知れませんよ!

ああ、なんというミーハーな締め括りなのでしょう!

「SMASH」ファン、ブロードウェイ・シアターフアンの方達は、必見のレストラン!!!
"サーディーズ"のご紹介でした。    



<Sardi's>
234 West 44th street, NYC
Phone : 212-221-8440 Fax:212-302-0865
火曜日~日曜日 ランチ ディナー
月曜日休
HP
http://www.sardis.com/htmldocs/cms/




篠崎はるく <企画・文>
ニューヨーク育ちの帰国子女。
1999に文化庁の研修制度の為、来米。
以後、NYに在住。
現在、ブロードウェイ作品等の日本公演におけるコンサルタント、
契約関連業務、プロデュース業務を行っている。


Michel Delsol <写真>
ミッシェル・デルソール
ニューヨーク在住、フランス人のカメラマン
アート・フォトグラファー。各種メディアや雑誌などで活躍中。
HP:
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