コラム from NY【第3回】
企画・文:篠崎はるく 写真:Michel Delsol
2013年5月21日
ブロードウェイのプロデューサー
「SMASH」ファンの皆様、ニューヨークからこんにちわ!このコラムでは、ブロードウェイの本場ニューヨークより、ショービズの裏側をあらゆる角度からご紹介しています。今回は、ブロードウェイのプロデューサーにご登場頂きます。「SMASH」で言えば、アイリーンの仕事ですね。
今や、ブロードウェイ・ミュージカルの製作には何十億円もかかるという時代。プロデューサーたちは、気が遠くなるような製作費を投資家たちから集めますが、舞台の評判が悪ければ、数日で資金が消えてしまうだけでなく名声も失うかもしれないという状況を、先頭に立って対処しなくてはなりません。一方で、プロデューサーなくして新作は生まれないという、それはそれは大きな存在なのです。そんな厳しい世界で活躍するプロデューサー、ケン・デビンポートさんに、いろいろとお話を伺ってきました。
"プロデューサー"と言っても役割はさまざまで、お金を出すだけのプロデューサー(=投資家プロデューサー)もいれば、コンテンツ(作品)を決めるところから関わり、投資家を集め、演出家やキャストを決め、舞台製作全般に関るプロデューサーもいます。ケンさんは、その両方をこなす敏腕プロデューサー。ブロードウェイ(ニューヨーク、マンハッタンのブロードウェイ界隈の、客席数が500席以上ある劇場で上演される舞台)を始め、オフ・ブロードウェイ(ブロードウェイ界隈の100席~499席規模の劇場で上演される舞台※異例もある)でも数多くの舞台をプロデュースしています。そして今、ブロードウェイで開幕したばかりの話題作「Kinky Boots (キンキーブーツ)」に投資家プロデューサーとして関わり、上演中のアラン・カミング主演「マクベス」では、エグゼクティブ・プロデューサーを務めています。
Q:「SMASH」はご覧頂いてますでしょうか?
K:もちろん観ています!大ファンだよ。シーズン2も、ずっと観ているよ。
Q:「SMASH」がヒットしたことにより、実際のブロードウェイにどんな反響があったと思いますか?
K:「SMASH」を観て、多くの人がこの世界に興味を持ってくれて、今まで演劇やミュージカルに触れたことがなかった人も足を運んでくれるようになったんじゃないかな。僕の周りでもそういう声をよく聞くんだ。だって、テレビで大ヒットしている番組だもの。舞台に携わるものにとって凄く嬉しいよ。
Q:ブロードウェイのプロデューサーという立場で観て、番組に描かれている世界はリアルでしょうか。
K:(大爆笑した後)判り易い例を云おう。僕の父は医者だったけど、ドラマ「ER」を観て「毎日、あんなに大げさに救急車が病院に入ってきて、患者を取り巻く家族にあんな劇的なストーリーがあったら大変だ!と、笑って話していたことを思い出すよ。「SMASH」もそういった意味では、インパクトのあるエピソードの連鎖として描かれている。でも誇張は必要だ。だって"ドラマ"だからね。僕の1週間をドキュメンタリーで追ったとしても、流石にあんなに毎日ドラマは無いな(笑)。でも、「SMASH」はやっぱり面白いよ。
Q:プロデューサーという仕事を説明すると?
K:会社の社長という役割が一番しっくりくると思うな。観客に観たいと思わせる舞台は何かを考え、その作品をどう具体化、商品化するかを考え、投資家を集める。そして、コンテンツ化されたあと、どうしたら多くの人に劇場に来てもらえるかを考える。つまり販売だね。そして、脚本家、演出家、制作、衣装、装置、照明、チケット販売員など作品に関わるスタッフや、出演者たちに給料を払わなくてはいけない。給料を支払うのにはどうしたらよいのかを考える。ね?まさに会社の社長でしょ?
Q:どうしてプロデューサーになろうと思ったのですか?
K:幼い時から、演劇が大好きだった。5歳の時に地域のコミュニティー・シアターで初舞台を踏み、その時から演劇に関る仕事を絶対にしたいと思っていた。そして、演劇に関る役割の中で自分に一番向いているのは、総合的に舞台を見極めることができるプロデューサーだと思ったんだ。実は、役者も時々やっているんだけどね(笑)。幼い時から、父の事務所でお菓子屋さんごっこをして、どうしたら沢山お菓子が売れるかをシビアに、ビジネスとして考えていた・・・そんな子供だったんだよ。
Q:一番始めにプロデュースした作品は何ですか?
K:オフ・ブロードウェイで上演した「The Awesome 80's Prom」という客席参加型のミュージカル。あの時は、とにかく必死だったよ。オープニングの夜の感想?そんなのは頭が真っ白で何も覚えていない(笑)。その後すぐに「Altar boyz」のオープニングも控えていたからね。とにかく猛烈に忙しかった。
Q:プロデューサーになるために必要な才能は?
K:作品を見極める芸術的なセンス、リサーチとマーケテング力、販売力、運営力。総合的なビジネスのセンスが必要だと思う。情報の時代、特に重要なのは、リサーチとマーケテング力かも。でも、ブロードウェイは本当に読めないところで、いくら念入りにリサーチをして、ヒットを続出している演出家を雇い、人気のある役者を出演させ、莫大な製作費をかけても、観客が面白いと認めてくれなかったら上演を続けられない。料理を作るのと一緒だよね。材料は全て最高級、シェフも五つ星、でも、お客様の口や好みにその料理が合わなかったら本当にそれまでだもの。必ずヒットさせるぞって思っても、こればかりは幕を開けてみないと判らない。そんな時に一番、舞台は観客と一緒に作っているということを実感するよ。そこが、舞台をプロデュースすることの魅力なのかも知れない。
Q:投資する作品やプロデュースする作品を決める基準は?
K:ひとつの作品を具体化するまでに時間も労力もかかるからね。"その作品が本当に好きであること"、それが第一前提。好きじゃないと、そんなに長い間頑張る気にならないからね(笑)。子供を育てるのと似ているよ。どんなに出来が悪い子供に育ったとしても、根本的に愛してあげられているかということを自分に問う。そして、その作品のパワーを信じることが出来るかどうかを自分に問いかけるね。
Q:人生を変えた舞台は何ですか?
K:幼少期に観た「レ・ミゼラブル」。五感が震えたのを覚えているよ。この作品のように"人に感動を与えられる舞台"を作りたいと幼心に思ったんだ。
Q:ブロードウェイでプロデュースをするということとは。
K:ブロードウェイという場所は、言うなれば、ミュージカルや演劇の聖地。つまり、金融関係で言えば、ウォール街と同じで、ブロードウェイは、ミュージカルや演劇を作る心臓の部分にあたる。ファッションがやりたければ、パリやイタリアに行くでしょ?それと同じで、舞台をプロデュースするならこの場所でしたい。ただし、ブロードウェイで作品を生み出すのは世界に類を見ない位難しいこと。65%の観客は、外国の観光客で成り立っているからね。英語圏の方もいれば、そうでない方もいる。演劇に興味がある人も、初めて舞台を見る方もいる。でも、エンターテイメントの頂点のこの場所で、人を感動させる舞台のプロデュースが出来るということは、最高に幸せなこと。一生続けたいよ。
Q:製作過程で、強烈に心に残っているエピソードは?
K:(自身のプロデュース作品の数々のポスターをゆっくりと眺めて)あるある!「My first time 」(色々な人の"初経験"の話をまとめた芝居で、原作も彼)で、話題になるプロモーションをと思い、「未経験の女性には舞台の無料券をプレゼントするというユニークな企画を立てたんだ。劇場の入り口に嘘発見機を設置して、女性たちにインタビューして、条件をクリアした人に観劇チケットを差し上げたんだけど、そのプロモーションが社会的に大反響を呼んでね。ゴールデンタイムの人気キャスターの番組でジョークに使われたり、CNNのホームページで話題になったりした。これこそ、プロモーションが成功した良い例だよ。この企画は本当に楽しかった!
そう語ってくれたケンさんの笑顔は、まるでいたずらっ子の子供のようでした。そして、これこそが彼の素顔鬼才プロデューサーでありながら、次に面白いことは何だろうと、子供のように常に目をキラキラと輝かせながら探しているのです。そんな彼は、プロデューサーという顔以外にも、ブロードウェイの舞台に上りつめるまでの過程をゲームにした「Be A Broadway Star」というユニークな商品を開発したり、リーズナブルな値段で稽古ができるようにと貸しスタジオを経営している実業家でもあります。また、プロデューサーの仕事についてのハウツー本も出版してます。
あらゆる視点で遊び心を持った彼だからこそ、多くの人の心をわくわくさせる作品を生んでいるのかも知れませんね。最後に彼に、もうひとつ質問をさせて頂きました。
Q:「人生は~」に、続く言葉を入れるとしたら?
K:「人生は・・・(しばし考えてから、力強い口調で)興奮することの連続!」
「人生は、日々予測できないことが起こる。だから舞台と一緒だよね。舞台も、毎日違う観客が観に来て、同じ舞台をやっているようで、絶対に同じ日がないから・・・」。そう満面の笑顔で語ってくれた彼は、誰よりも、自身の人生という"舞台"を楽しそうに"プロデュース"しているのです。
ケンさん、ありがとうございました!
※最新ニュース
現在は、日本でも熱烈なファンを持つ映画「ある日どこかで」の新作ミュージカルを手掛けている彼。来年にはブロードウェイでプレミアオープンの予定。
※関連リンク
Ken Davenport HP