「SMASH」は、架空のブロードウェイ・ミュージカル「マリリン」製作をめぐるスタッフ、キャストの人間模様のシリーズ・ドラマということで、オリジナルの歌曲が必要となる。ミュージカル仕立てのドラマの中でも、「SMASH」の大きなセールスポイントはこの部分。そのため、このソングライティング・スタッフの豪華さに触れたい。映画音楽作曲家としてのキャリアも長く、ミュージカル・ナンバーも本格的に「ヘアスプレー」(2003年トニー賞受賞)あたりから関わるようになったマーク・シェイマンが、シェイマンが歌曲を手がける時の相棒的作詞家スコット・ウィットマンとともに担当。エモーショナルな歌詞に、いかにも王道なブロードウェイ・ミュージカル風のスケール感、感情を盛り上げる効果たっぷりのけれんみのあるメロディをストレートに聴かせるアレンジでいながら、絶妙のポップさで、昔からのミュージカル・ファンにも、そして、これから、若者にその楽しみを味わってもらおうという入り口としても心地良いナンバーに仕上げている。
注目のキャストについても音楽面から触れる。ヒロインを夢見るカレンを演じるキャサリン・マクフィーによる「虹の彼方に」からドラマは幕を開ける。もちろん、この曲は誰もが知るスタンダード中のスタンダードだが、マクフィー自身が2006年にシンガー・デビュー曲として歌ったナンバーでもある。アメリカの人気スター発掘番組「アメリカン・アイドル」で準優勝となりつつも、バラードを歌いこなす力量で玄人筋をうならせ、現在まで3枚(うち1枚クリスマス・アルバム)をヒットさせてきたが、もともとミュージカル・アクターを志していた彼女だけに、今回のカレン役への起用は、マクフィー自身の夢の実現とも重なる、という構成になっているのだ。
サントラ収録曲を見ていくと、シェイマン&ウィットマン・チームの楽曲以外に、マクフィーが歌うのは、アップテンポなソウル・ナンバー“TOUCH ME”(第8話で披露)、ゴスペル・ナンバーの“STAND”、そして第1話のハイライトでもある“BEAUTIFUL”(オリジナルはクリスティーナ・アギレラ)の歌いっぷりは、特に注目されたい。他に、壮大なロック・バラード“SHAKE IT OUT”(オリジナルはフローレンス・アンド・ザ・マシーン)、フォーキーな“BRIGHTER THAN THE SUN”(オリジナルはコルビー・キャレイ)、そしてカレンのライバルとなる頑張り屋アイヴィーを演じるメーガン・ヒルティが歌うのも、力強く“WHO YOU ARE”(オリジナルはジェシー・J)、しっとりと“CRAZY DREAMS”(オリジナルはキャリー・アンダーウッド)といったように、近年のポップ・カヴァーでも、メガヒットのパレードではなく、彼女たちの歌唱力を存分に楽しんでもらえるナンバーを厳選しました、の印象があり、結果、原曲に親しみがあるか否かの興味はほとんど関わりなく、ただただ彼女たちのヴォーカルに酔いしれることができる仕上がりになっているのだ。
「SMASH」は、第一線のエンターテインメントのプロたちが、新たな宝石に期待をかけるドラマだ。その楽しませ方に「フィクションだから」というウソは、そこにはない、ということは、完成されたポップ・ヴォーカル・ナンバーの数々が証明している。